雨に唄えば

その日、ぼつりぼつりと雨が降り出していた。
このくらいなら気にしなくていいけれども、
まあ、一応、ポンチョを頭からかぶって、
自転車のサドルにまたがった。

ぼくは雨に降られたとき、ひとりごとを言う癖がある。
パラパラっとした雨なら、

春雨じや、濡れてまいろう。

ザーッと降ってきたら、

アイム シンギン イン ザ レイン

どちらも、大昔の映画のセリフまたは歌詞だったと思って調べてみたら、
「春雨じゃ、濡れてまいろう」は、新国劇の月形半平太のセリフらしい。
ぼくが新国劇なんか見るわけないから、
ドリフのコントかなにかで言っていたセリフを覚えていたのだろう。

「アイム シンギン イン ザ レイン」は、昔、映画を観たはずだ。
土砂降りの雨の中、楽しそうに、ジーン・ケリーが
「アイム シンギン イン ザ レイン」と歌うシーンは鮮明に記憶に残っている。
改めて歌詞を調べてみたら、
雨の中だって歌えばこんなに幸せさ、っていう内容で、
幸せなお調子者だなあと思いながらも、すごくいいなと感心した。

昨日、友人とでかけたとき、
突然の豪雨に見舞われた。
雨が降ったときの町の匂いが好きだ、と
友人は言った。
雨の降ったときの匂い、
雨があがったときのさっぱりとした感じ、
確かにいいな、と、ぼくは同意した。

そういえば、ポンチョをかぶって自転車をこぎ出したその日、
途中から大雨に降られ、
ぼくは、ずっと
アイム シンギン イン ザ レイン
と歌いながら、ペダルを漕いでいた。

よかったらシェアしてね!
目次