納豆を食べる家庭ではなかったので、納豆を初めて食べたのは北海道・帯広の大学に入学してからである、、
大学生協が運営する食堂があって、ご飯と豚汁と納豆という組み合わせをよく食べた、
あの頃、その組み合わせで250円くらいだったと思う、
大学時代は確か月8万円の仕送りをしてもらっていたはずである、
今から思うと、あの時代に毎月8万円の仕送りをよくできたものである、、
母親はもういないけれども、きっと何かと苦労をしたはずである、、
いずれにせよ、8万円で下宿代、光熱費、食費など、そのほかもろもろを賄わないといけない、
たまにバイトもやっていたから、臨時収入はあったものの、削れるものは削っていかないと、、
そんな気持ちは常に持っていた、、
一番削れるものは食費である、、
大学生協は日替わり定食が、200円、300円、400円くらいの3種類あったはずである、
それら日替わり定食もよく食べた、
しかし、一番よく食べたのがご飯と豚汁と納豆という組み合わせである、、
生協がなかったら大学時代の食生活は成り立たなかったはずである、、
なかでも納豆がなかったら、学生時代の健康を維持することはできなかっただろう、
以来、納豆はよく食べるようになった、、
けれども、それほどバリエーションがあるわけではない、
御飯の上に納豆を乗せて食べるか、それとも納豆だけで食べるか、そのどちらかである、
せいぜい納豆にキムチを混ぜたり、あるいはネギや、時にはシラスなんかを混ぜたりして食べるくらいである、、、
名古屋の栄に納豆ラーメンなるものがあることを知って、、、一度食べに行きたいなと思っていた、、、
しかし、わざわざ栄にラーメンを食べにくのも、ちょっとなんだしなあ、
わざわざ食べに行くほどのものでもないような気がしていた、、
機会があったら、食べに行ってやらぬでもないが、、
そんなふうに考えていたのである、、
なぜそういう態度になるかというと、納豆はその程度の距離感のほうがいいと感じていたからである、、
納豆は食べたいときに食べられる日常的なものだから、
特別なもののように祭り上げるのは憚られるのである、、、
いつもそばにいる納豆なのに、ちょっと違う側面を見せられ、戸惑うのを恐れているわけである、、、
そんな折り、たまたま、ももさんと会って、たまたまラーメンを食べに行きたいという話の流れになって、
たまたま、それほど遠くない場所だったため、それでは納豆ラーメンはどうだろうと話がまとまったのである、、
「もっこす栄店」というその店は、なかなかの人気店のようで、
ぼくたちが入店してからも次から次へと客が入ってきた、、、
カウンターだけの狭い店内なので、奥の席に行こうとすると、すいませんと言いながら慎重に進まないといけないくらいである、、、
客はほぼ男ばかりで、汚くはないが、清潔かというとそういうわけではない店内である、
真っ白の服を着たももさんは明らかに異質である、
二人とも納豆ラーメンを注文、
しばらくして白く泡立ったラーメンが運ばれてきた、
ももさんは、大将に、紙のエプロンはありませんか？ とたずねた、、、
気の良さそうな大将は、ちょっと困った顔になって、、ああ、すいません、ないんですと恐縮した、、、
じゃあ、テッシュはありませんか？ とももさんは、さらに追い打ちをかけた、、、
大将は、ああ、それならありますという感じで、テッシュのケースを前に置いてくれた、、
ももさんは、テッシュを1枚取ると、首元に挟んだのである、
明らかに短いので、あまりエプロンの役目は果たさないと思われるものの、ないよりはマシである、、、
それよりも、澄ました顔でテッシュを首元に挟む優雅な仕草が、店内の雰囲気とあまりにかけ離れていて、
ももさんのまわりだけ、違った時間が流れているようであった、、
納豆ラーメンは、思いのほかあっさりしていて、するすると喉を通っていく、
大粒の納豆がゴロゴロ入っていて、納豆をすくいながら食べていると、
これはラーメンなのかどうかがわからなくなる、、
納豆、たくさん入っているね、おもしろい、
ももさんは、こういう雰囲気の店はあまり来ないようだから、その雰囲気も含めておもしろがっているようである、、、
ぼくが行く店はこんなところばかりだけど、、、
いいね、こういう雰囲気、、、と、ももさんは気に入ったようである、、、
もっこす、というのは、熊本弁で頑固者という意味らしい、、、
熊本では納豆ラーメンなるものが一般的なのかどうかは知らないけれども、、、
たまに食べるのは悪くないし、納豆はラーメンの中に入っていても納豆そのものなのであった、、、
納豆のまったく別の顔を見せられて、戸惑ったということはなくて、
むしろ、お前はどんなときでも納豆だな、と、改めて感心したのである、、
それと、ももさんも、どんなとき、どんな場所でも、ももさんなのであった、、
納豆も、ももさんも、もっこすだなあ、、、
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