器をつくって名古屋で暮らす  梅本尋司さん、泉田知香さん

梅本尋司さんと泉田知香さんはご夫妻で、名古屋市内の住宅街に工房を構えている。そのため、いろいろな制約があるが、むしろその制約の中で何ができるかを考え、挑戦するのを楽しんでいる感じがある。梅本さんは、縄文の土器をイメージできるような器で、泉田さんはかわいい動物をモチーフとした器。お二人がつくっている器は、まったく異なるけれども、お互いを尊重し、器をつくりながら暮らしている。その生活の在り方がすごくいい。
今回の取材は「魅力なものをつくっている人と雑談をする」というのがテーマ。
(文:小出朝生  写真:松永賢)

釉薬で質感を模索

梅本さんと泉田さんは40代前半の同い年。多治見市陶磁器意匠研究所で出会った。二人で器をつくって暮らしているという雰囲気がすごくいい。工房は名古屋市内の住宅街なので窯は電気窯。ろくろが二つ。泉田さんは今も会社に勤務していて土日の休日に作品をつくっている

小出 お二人のご出身は名古屋ですか?

泉田 はい、わたしはこの近くです。

梅本 ぼくは生まれは名古屋なんですが、小学4年に大阪へ引っ越して、大学卒業まで大阪でした。

小出 お二人とも美術系の大学を卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所に入っていますね。

梅本 ぼくは大学でオブジェをメインにつくっていたんですが、もうちょっと器がやりたいなと思って、、、

小出 器で食っていこうみたいな気持ちが?

梅本 ありましたね。

梅本さんの作品は縄文をモチーフとした作品のほか、民俗学的なアプローチによる作品が主体。主に釉薬によって表情を表現しているという

小出 泉田さんは?

泉田 大学の非常勤の先生に勧められて、、神谷先生、

小出 ああ、神谷さん、、

泉田 それと、デザインとして器をもっとやってみたいなと思って、

泉田さんの作品は写真のようなかわいい動物たちがカップにつかまっている作品など、動物をモチーフとしたものが主体。とにかく、かわいい

小出 卒業後は?

梅本 瀬戸で商社に就職して、10年くらいサラリーマンをしていました。

小出 へえー、長い間、ちゃんと働いていたんですね。その間、働きながら作品をつくっていたんですか?

梅本 はい、そうですね。いつかは陶芸家として独立したいという思いはあったんですが、卒業後すぐに陶芸家としてやっていくのは現実的にはちょっと無理だなあ、と。

小出 その頃、つくっていたものは、今とだいぶ違いますか?

梅本 だいぶ違いますね。もうちょっとなんか土っぽいというか、どっちかというと、テクスチャーを模索していました。

小出 縄文をモチーフにした作品は、いつから?

梅本 名古屋に工房をかまえてから、いろいろな制約ができて、、、たとえば、還元焼成ができないとか。そこで、どうしようかなと考えはじめたときに、やってみた技法がわりとしっくりきた。ぼくは釉薬で今の質感を出しているんです。

小出 あ、そうなんですか。釉薬なんですね。

梅本 テストピースをつくるのが好きで、ずっと釉薬の調合をしては、テストピースをつくることを繰り返していました。だから、テクスチャーを探していた時には、釉薬をいろいろテストしていました。
ただ、最初は縄文という意識はなくて、土器っぽい感じというのを探していました。それを電気窯でどうやって再現していくかを考えていました。

小出 今の作品は中東系の香りも少し感じるんですが、そのへんは意識しているんですか?

梅本 今は民俗学と考古学にはまって勉強をしているので、民族の文化とかをいろいろ掘り下げながらつくっています。縄文をイメージした作品は、それまでの釉薬のテストをもとに3年ほど前からつくるようになりました。

工房は偶然にもぼくの自宅のすぐそば。こんな近くで器をつくっている陶芸家がいたなんてという驚きがあった。梅本さんは年に3回ほど個展を日本各地で開催している。泉田さんはグループ展などに出品することが多いという

二人並んでろくろを挽く

小出 一日のタイムスケジュールを教えてもらえませんか?

梅本 朝は7時半くらいに起きて、こっちが(泉田さん)が8時くらいに出勤するんで、

小出 あ、そうか、泉田さんは平日は会社勤めされているんですもんね、

梅本 9時前くらいに家を出て、こっちの工房へきて、すぐに作業にかかります。それから昼まで仕事して、昼ご飯を食べて、午後の仕事をして、それから家に帰って、ぼくが夕ご飯をつくって、一緒に食べる。

小出 泉田さんは、いつ作品をつくるんですか?

泉田 仕事が休みの土日ですね。

小出 じゃあ、土日は夫婦で一緒につくるんですね、

梅本 工房が狭いんで、部屋を分けることもできないし、並んでろくろを挽くこともよくありますね。

小出 いいなあ、、。梅本さんは、作品をつくるに当たって、明確なイメージが頭にあって、それを具現化していくという感じですか?

梅本 ああ、どっちだろう。どちらかというと、最初にイメージがあって、それをもとにつくってみて。でも、だいだい1回目はだめなんで、そのあと、こうしたほうがいいなというものが出てくる。
この作品(下の写真)は縄文の模様を張り付けているんです。あと、下の模様は別の釉薬で描いているんです。さらにその上から特殊な釉薬を塗るんです。その質感が出る釉薬というんでしょうか、、、塗り分けているんです。それがちょっと大変ですね。

質感とか表情とか、なんかそういった何とも言えないグッとくる感じ。手に持ちたい、触りたい、という思いが自然と湧いてくる作品がいい

小出 泉田さんの場合は?

泉田 最初に動物の素地をつくって、、、猫を飼っているので、どうしても猫が多くなってしまうんですけど、

小出 猫飼っているんですよね、

泉田 保護猫を二匹飼ってます。

松永 小さな子猫がおれの工房に迷い込んできたことがあって、ミルクをあげたり、ちょとだけお世話してあげたことがあるんですけど、ネットでノミ取りを注文した翌日に忽然と消えてしまって、、、

小出 やっぱり、こんなやつのところにいちゃだめだと思ったんだろうね(笑)、

松永 (笑)、、、猫はやっぱりかわいいですね、

小出 うん、かわいい、

梅本 あまり懐かないけど、たまに寄ってきたり、そこがいい

たまたま猫の作品がなかったけれども、泉田さんは猫をモチーフにした作品が多い。猫好きにはたまらないね、たぶん

縄文と弥生の融合を試みる

この写真のような作品が、梅本さんがめざす縄文の形と質感を具現化したものである。確かに縄文の雰囲気がある

小出 ああ、そうそう、なんで縄文なのか、そこを聞いとかないと、

梅本 縄文土器は昔から単純に好きだったんですけど、民俗学とか勉強をしていると縄文は絶対に外せないということもあるんで、、、。でも、縄文だけを器の中に取り入れたくはないというか、縄文と弥生も合わせてみたいと、、、で、それをやってみたら、なかなかいいんじゃないかと。

小出 へえ、梅本さんの中で、縄文はこういったものだ、弥生はこういったものだと、そんなに厳密なんですか?

梅本 わりとそうすね。学問的に忠実というか、

松永 縄文から弥生へ変わるときはバシッと変わったわけじゃないですよね。

梅本 じゃない。グラデーションですね。
縄文も前期、中期、後期、晩期など、めっちゃ細かく分かれているんです。同じように弥生も分かれている。その終わりと始まりがグラデーションで重なっているんです。
弥生から現代までの時間より、縄文のほうが長いんですよ、なので、縄文とひとくくりに言っているんですけど、前期、中期、後期で特徴が異なるんです。
そのなかでよく知られているのが中期、火炎式土器の頃ですね。縄文というとそのイメージがあるので、それを取り入れるとわかりやすい。でもこの作品(上の写真)は晩期なんです。(笑)
ただ、自分の中では縄文中期、晩期の違いはあるんですけど、それを押し付けて説明することはないです。

松永 忠実にやったうえで、弥生と混ぜる試みをしているということですね。

梅本 概念と言ったらいいのか、忠実に再現しているということではないです。
ただ、縄文は個人的には大好きなんですが、縄文だけをモチーフにして作品をつくっているかというと、そうではなくて、もうちょっといろんな文化を取り入れていきたいというか、そういう気持ちはありますね。

梅本さんの作品。縄文なのかどうかはわからないけれども、民族的な観点から作品づくりに取り組んでいてることが伝わってくるし、それがなんかすごく魅力的である

🔸 近日中に、梅本さんと泉田さんの作品をkinjoショップで販売予定。お楽しみに!

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