忘れる、とはいったいなんなのか。
忘れ物、というのはいったいなんなんだろうか。
というのも、ぼくは若いときから、
とにかくいろいろ忘れるし、
忘れ物も多かったからだ。
いや、ほんと、とにかく忘れる。
よくあることでは、
財布を忘れる、携帯を忘れる、
いろいろ約束を忘れる、
最近では、取材の仕事をすっかり忘れていて、
一緒に行く編集者から
「いまどこ?」と電話がかかってきて、
はじめて、
今日、取材の日だった!
と気づいた。
そのときは編集者に車で迎えに来てもらって
なんとか取材先に間に合ったけれども。
まあ、社会人として失格なのは確かだよなあ、
でも、忘れちゃうもんはしょうがない、
いろいろ忘れて、
これまでなんとか生きてきた。
横井正一さんは、
日本軍の力を信じ、ジャングルで生きのび、
帰国したときには、
「恥ずかしながら帰って参りました」と告げた。
ぼくはいろいろ忘れて、忘れまくって、
恥ずかしながら生きて参りました、と思う。
そんな哲学的で深遠な思索にふけっていると、
ふらっと立ち寄ったコンビニで
コーヒーの機械を壊してしまった
インド系のバイトの若者(男)が
店長らしきおじさんに
「だめだよ、壊しちゃって」と叱られていた。
叱られて、しょんぼりした姿が
かわいそうで仕方がなかった、
ぼくは自分に言い聞かせるように、
大丈夫だよ、
機械なんか壊したって、
直しゃあ、いいんだから、
気にするなよ、
と、心の中で声をかけていた。