まちの小さな刺しゅう屋さん

「刺しゅう屋p-Co」という名前、どうやって読めばいいのか、
よくわからなかったので、「ぺこ、ですか?」と聞くと、
「ぴいこ、です」と正された。

「刺しゅう屋p-Co」は、
神野文彦さんが営む刺しゅう屋さん。
オリジナルの刺しゅうの制作・販売のほか、
この写真を刺しゅうにしてほしいといった依頼などを受けている。
南区の仕事場には、刺しゅうの機械が2台置いてある。
1台が8色、もう1台が15色に対応している。

神野文彦さんは、高校生の時にSLEという難病が見つかり、
まわりの同級生が進学、就職していくなかで、
何もできないという状況になってしまった。
会社に勤めることが難しいため、
絵を描くことが好きだった神野さんは、絵本作家をめざす。
とにかく、絵本作家になることを夢見て、
文彦さんはどうしたかというと、
名古屋の絵本専門の本屋・メルヘンハウスに通って、
たくさんの絵本を読んで勉強しようと思ったのだ。
ほぼ毎日メルヘンハウスに通っていたというから、なかなかすごい。
絵本作家をめざしてメルヘンハウスに通う、
というのは、それほどめずらしいことではないのだろうか、、、

「そんなひと、ぼくしかいなかったですけど」
文彦さんは、こともなげに答えたから、
ぼくは、ちょっとおかしくなってしまった。
不器用な若者が一生懸命、なにかになろうと必死になっている
その姿に、なんか、心が動かされるし、
いとおしい気持ちになる。

しかし、文彦さんは、
絵本作家の夢をいったん中断した。
いろいろ理由はあったのだろうが、
自分の力だけでは何もできない、
そう感じたからだそうだ。
それからはイラストや石粉粘土による造形をして、
発表・販売を続けてきた。

刺しゅうは、妻の貴子さんと出会ったことが大きかった。
貴子さんは、刺しゅう機メーカーに勤めていて、
そこで刺しゅう機に読み込るデザインデータを
デザイン・設計していた。
貴子さんは、将来は
夫婦で刺しゅうをやっていきたいなあという夢をもっていた。
文彦さんは、貴子さんを通して、
刺しゅうの魅力に気づいていった。

刺しゅうは、刺しゅう専門ソフトを使って、
コンピューター上でデザインをしていく。
そのデータを刺しゅう機に読み込ませれば、
あとは機械がデザイン通りに糸を縫っていってくれる、
というわけではないようだ。

たとえば、丸い目玉をデザインした場合、
そのまま機械に読み込ませると、丸い目玉にはならない。
縫っていくうちに生地が引っ張られて縮むため、
扁平の目玉になってしまうからだ。
それを見越して、縦長の目玉にすると、
丸い目玉の刺しゅうに仕上がる。

それらのさじ加減が、幾重にも、複雑に絡み合って、
刺しゅうが最終的に完成する。
かわいくなるのか、いい感じになるのか、
それは、まさに、
経験と勘、センスにかかっている。

SLEという難病、絵本作家、イラスト
その朴訥な風貌と話し方、生き方、笑顔、
文彦さんと貴子さん、二人のすべてが、
刺しゅうとして縫い込まれている。

刺しゅう屋p-Coさんのホームページ
https://www.xn--p-co-f63cxd2ok49u06s.com

🔸kinjoの猫が抱き合っているイラスト(作:辻政広さん)を、
刺しゅうにしてもらうように「刺しゅう屋p-Co」さんにお願いをしました。
現在、制作中です。
ワッペンとトートバッグになります。
近日中に、kinjoショップで販売します。

🔸イラストレーターの辻政広さんは、現在、行方不明です。辻さーん、生きてるかなあ、、、 
辻さんについては、kinjoショップで販売時に、少し紹介します。

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