名古屋陶磁器会館3階の業界新聞は
木製の扉から中に入ると、
左手にコピー機があって、机が6つくらい並び、
まわりには資料とか本とかが、ずらーっと並んでいた、
ぼくはその中で、中央あたりのスチール製の机に座っていた、
今では考えられないことだが、
文章は手書きあるいはワープロで書いて、
それを近くの活版印刷所へ渡して、
二人のオジサンが一文字一文字、
金属の活字をひろって組み上げていった。
当時でさえ、活版印刷は絶滅寸前だったから、
今から思うと、貴重な体験だったなあと思う、
まあ、そんなふうに、ぼくは、
取材に行って原稿を書いたり、印刷所へ原稿を届けたり、
写植屋さんに行ったり、広告の営業に行ったり、
していたんだけれども、
名古屋陶磁器会館の階段で頻繁に多くの女性とすれ違い、
そのたびに、こんにちは、と挨拶したり、
しなかったりしているうちに、
次第にちょっとした会話をするようなった、
その一人がファッションデザイナーのグリグリさんだ、
グリグリさんは、背は低く、髪は短く、丸い体形をしていた。
年齢は、どれくらいだったのだろうか、
30代後半? かなあ、、、
その頃、ぼくは20代で、若干人見知りの傾向があり、
あまり積極的に人と関わる感じではなかったが、
グリグリさんは、そんなことはお構いなしに、
「何やってんの? あ、そうなの、へえー」
みたいな貫禄ある感じで、ぼくは、それに対して、
「あ、そうなんです、、恐縮です、、」
みたいな感じで、、、
ファッションデザイナーかあ、
そんな人種が生息しているんだなあ、この世の中には、
と眩しく思っていた。
グリグリさん自身は、とくにオシャレではなかったけれども、
グリグリさんを訪ねてくる女性とか、
グリグリさんの職場の雰囲気なんかは、
すごく華やかな印象だった。
ある意味、ぼくとはまったく縁のない世界といえるが、
グリグリさんが、頼りになる姉御のような感じで
気さくに接してくれたおかげで、
その華やかな世界を少しだけ垣間見るようになっていった、、
ぼくにとって、グリグリさんは
名古屋陶磁器会館物語を語るには外せない人物だ。
殻に閉じこもりがちだったぼくを、
そんな殻があることなんて気にせず、
「ちょっと来なさい」と自分の職場に招き入れたり、
「それじゃだめだね、ははは」と自信たっぷりに笑ったり、
ぼくを引っ張って、
人の中へと連れ出してくれたひとりだった、、