晴れた日に長靴

いつものように自転車通勤途中、
おじいさんがゆっくりと
歩道を自転車で進んでいる。
ゆっくりと。
ちょっとサドルが低いから、
足が窮屈のようだ。

ぼくもその後ろをゆっくりとついていく。
こんなに晴れているのに、
おじいさんは長靴を履いている。
しかも、自転車の後ろに傘を挟んでいる。

おじいさん、今日は雨は降らないよ、
なんで長靴なんて履いてるの?
おかしいなあ、ふふ、
ぼくは頭の中でそんなことを考えている。
おじいさんは、ぼくが後ろについていることが
少し気になったみたいで、
5度くらい、ちょっとだけ首を右に振って、
また前を向いた。

ぼくは、
気を使わせてしまったみたいだなあ、
ごめんね、
と頭の中で謝って、
でも、今日は雨は降らないと思うよ、
なんで長靴なんだろう、と、もう一度思った。

そのあと、ぼくは信号を渡るためにとまったが、
おじいさんは、そのまま、まっすぐ進んでいった。
サドルがちょっと低くて、
長靴を履いたおじいさんの後ろ姿をずっと眺めながら、
ああ、そういうことなんだと、
ぼくは突然ひらめいた。

みんなの究極の目的は、
笑顔で暮らすこと、それ以外にないじゃないかなあ、
そうだよな、
絶対そうだ、
晴れた日に長靴を履いたって、
笑顔で暮らしていれば、
何か問題があるのだろうか。

おじいさんの背中を目で追いながら、
ぼくはこの小さな発見を、
ちょっと誇らしく思っていた。

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