続続・よく歩いていたころ、

多治見市陶磁器意匠研究所では
同い年の斎藤洋一君と出会った、
ぼくたちは急速に仲良くなって、
いろんな話をして、いろんなところへ行った

齋藤君は陶芸家になるという明確な目標を持っていた
ぼくはずっと道に迷ったままだったから、
齋藤君はいいなあ、うらやましいなあ、と思っていた、
意匠研究所を卒業後、
齋藤君は京都の陶芸家へ弟子入り、
ぼくは、洋食器メーカーへ就職した

ただ、この頃から、年上の友人に誘われて、
ぼくは登山にいくようになった。
初めて登ったのは剣岳、
前日、山小屋に泊まって、早朝から山頂を目指した。
手を離したら死ぬな、というところを登っていき、
山頂についたときには、感激というより、
ほっとした。
初心者を連れてくるような山じゃないだろ、これ、
しかも、ぼくはスニーカーだったし、

しかし、なぜか、その後も山登りをつづけ、
白馬岳から立山までを二泊三日で縦走したときには、
ずっと歩きっぱなしで、
それでも最後のほうは
どんどんスピードが増して、
ランナーズハイのような気分になった、

一方、普段の暮らしのなかで、
思いつめたように歩き回ることは少なくなっていった、
中古のおんぼろカローラを購入したことで、
孤独なドライブに出かけることが多くなった、

でも、ぼくのなかで何か変化があったわけでない、
一点を見つめて、交互に足を前に出す代わりに、
足の裏で、アクセルとブレーキを操作するようになっただけにすぎない、
唯一の救いは、
夜、京都の斎藤君と電話で話していると、
夢のようなものが、
ぼんやりと浮かんで見えた気分になれたことだ、

ぼくはまだ闇の中にいた、、

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