辻さんに会いたいなあ

辻政広という男に出会ったのは30歳ころだったと思う。
巨漢で、髭を生やして、
髪はパンチパーマだったか、五分刈りだったか、
およそエッチング教室にいるようなタイプではなかった。
たぶん、ぼくの方が先にそのエッチング教室に入っていて、
辻さんが後から入ってきたはずだ。

あまり近づかないでおこう、というのが真っ先に思ったことだ。
それがどうして親しくなったのか、憶えていない。
いつの間にか一緒にご飯を食べにいくようになり、
なぜかぼくの職場に辻さんが遊びに来たりするようになった。

とにかく、辻さんは気さくで、
見た目に反して笑顔がかわいい男だった。
しかも、
辻さんの絵が、また、かわいかった。
その見た目で、この絵を描くんだ、
という驚き。

しばらくして、ぼくは雑誌を出版するようになって、
その雑誌の表紙に辻さんのエッチングを使わせてもらった。
辻さんさあ、このエッチング、ほしいんだけど、くれない?
でさあ、この絵、雑誌の表紙に使っていいかなあ、、、
おお、いいよ、
どんなふうに使ったっていいよ、
そんな感じの会話をした、と思う。

その後、辻さんは、チベットとか中国とか
放浪の旅に出かけて、旅先からハガキを送ってくれて、
なんだかすごいなあ、と感動してしまった。
同じ時代を生きている男という感じがしなかったのだ。

しばらくして、辻さんは、放浪の旅から帰国、
なんか変わっているかなと変な期待をしていたが、
会ってみると、相変わらず辻さんは辻さんだった。
そのとき、また旅に出ると話していて、
また行くの、とぼくは驚いた。

あれから、辻さんには会っていないし、
連絡もない、
どこへ行ってしまったんだろう、
もしかして夢だったんだろうか、
辻さんのことを思い出すたびに、
ぼくは不思議な感覚にとらわれてしまう。

もう一度、
辻さんに会いたいなあ

🔸辻政広さんのエッチングを、
「刺しゅう屋p-Co」の神野文彦さんに刺しゅうをしてもらいました。
ワッペンとトートバッグです。
kinjoショップで販売しますので、のぞいてみてください。

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