ビールと音楽があれば、それでいい   バタフライブルワリー

バタフライブルワリーの楽器名のついたクラフトビール。いつも飲んでいるビールとはまったく味わいが異なる

新米刑事モースという刑事ドラマは、
1965年くらいのイギリス・オックスフォードが舞台となっていて、
よくビールを飲むシーンが出てくる。
あるシーンでは、同僚がビールを冷蔵庫に冷やしたことに対して、
主人公のモースが、こんなふうに叫ぶ。

ラガーじゃなくて、ビターだぞ!

つまり、このビールはラガーではなくて、ビターだから
なんで冷やすんだ、と怒ったのだが、
そのとき、ぼくはその意味がよくわからなかった、、
で、さっそく調べてみると、驚くべきことがわかったのだ、

世の中にあるビールは大まかに、
エールとラガーに分類されて、
サッポロとかキリンとかアサヒとかサントリーとか
日本の大手企業がつくっているビールはほぼラガー、
で、このラガービルは、のど越しを楽しむために冷やしたほうが美味しい。
だから日本人は、キンキンに冷えたビールこそ美味しい、
と思っているわけか、、

一方、モースが叫んだビターというのはエールビールのことで、
それは冷やしすぎると風味が失われてしまうから、
冷やしすぎに注意する必要がある。
それを知ったとき、ぼくは、ええ!っと驚いてしまった。
冷やしすぎ注意のビールなんてあるんだ、、
まったくもって、なんて無知だったんだろう、

日本でもエールビールが手に入るのかと調べているうちに、
小さな醸造所がつくっているクラフトビールと呼ばれているものは、
そのほとんどがエールビールに分類されるものということがわかってきた。
しかも、それが、実に多彩であることに驚いた。

そんなとき、ももさんから、
名古屋のベルカントというイタリアンレストランで飲んだビールが
すごくおいしかったと聞き、しかも、
なんと、そのビールの醸造所が春日井にあるとわかり、
じゃあ、もう、一緒に話を聞きに行こうとなって、取材を申し込んだ。

バタフライブルワリーの醸造所とももさん。隣の住宅は入谷さんの自宅。屋根のある屋外では音楽家を招いて定期的に演奏会が開催される。そのときは、まさに人々が集うビールと音楽の楽しい場所となる

バタフライブルワリーは、2021年11月、春日井にオープン。
代表の入谷公博(いりたにきみひろ)さんと醸造長の玉城仁志(たまきひとし)さんの二人で運営をしている
クラフトビールの小さな醸造所である。

そもそもは、
転勤の多いサラリーマン生活に区切りをつけて地元に戻った入谷さんが、
プロのフルート奏者だった妻の光江さんと二人で、
音楽とクラフトビールが融合して、楽しく、みんなが集う場所をつくりたい
という思いから始まった。

入谷さんは、愛知県内の大学を卒業後、地元で就職したが、5年後に東京へ転勤。東京で光江さんと出会い結婚。東京生活10年目で、故郷・春日井市へ

しかし、夢が具体化し始めたころ、光江さんが突然の病を発症、
なんと40歳という若さで急逝。
そのときの入谷さんの気持ちを推し量ることはできないが、
まだ幼いお子さん二人を前にして、
自分が頑張るしかないという決意を強くしたことは想像に難くない。

その後、家族や友人に助けられながら、
少しずつ前を向いて歩き始めた入谷さんは、
光江さんが亡くなってから約1年後に、
夫婦二人で夢見たバタフライブルワリーをオープンした。
その半年後には、大学時代の友人である玉城さんが、
醸造長として加わってくれることになった。

玉城さんは沖縄県那覇市出身。大学を卒業後に役者になり、舞台をメーンに活動した時期もある。飲食店や免税店などさまざまな職を経て、沖縄から家族と一緒に春日井のバタフライブルワリーへ

現在、バタフライブルワリーのビールは14種類。すべてがエールビールで、
ビールの名前は、ギター、オーボエ、ヴィオラ、フルート、クラリネット、
トランペット、マリンバ、ハープ、ピアノなど、楽器名がつけられている。
それは入谷さんが光江さんとともに考えたアイデアだ。
その楽器名をイメージした味を実現するために、いろいろな工夫が盛り込まれている。

たとえば、ももさんがイタリアンレストランで飲んだマリンバは、
「ビーツを使った鮮やかなピンク色と、弾むようなフルーティさを追うほろ苦さが魅力的なIPA」と
説明されている。
製造過程で、ビーツという野菜を使ったため、鮮やかなピンク色をしている。
IPAというのは、ホップを大量に使ったエールビールの一つで、
それをバタフライブルワリー流にアレンジしたのが、このマリンバというわけだ。

醸造所内にはタンクが5つ。クラフトビールの醸造所は小さなところが多くて、うちはスペース的には恵まれている方だと話す入谷さん

入谷さんは、これからも、どんどん新しいビールを開発していくと話していた。
入谷さんが考えた楽器のイメージをもとに、玉城さんがレシピに落とし込み、
醸造をして、ビールへと結実させていく。
まさに、それは音楽を奏でるような共同作業ではないか。

取材中、お客さんが何人もビールを買いにきた。こんなふうにビールの量り売りもあって、その場で飲めるし、また、マイボトルに詰めてくれたりする

ラガービルは、ごくごくごくと喉に流し込む爽快感がある。
一方、エールビールは、
ゆっくりと時間をかけて楽しむワインのようなビールといっていいかもしれない。
そのエールビールのつくり手であるクラフトビールの醸造所は、
全国に800か所以上あって、そのうち愛知県内には24か所。
それらすべての醸造所が、思い思いの工夫を凝らして
ビールを醸造している。
こんな奥深いビールの世界があったなんて、まったくもって驚きだ。

ももさんはカップに2杯ほどビールをいただいていた。ぼくは美味しそうだなあと眺めているだけだった

バタフライブルワリーとの出会いをきっかけに、
近所のクラフトビールを巡る旅を、これから、はじめていこうと思う。

バタフライブルワリー  https://butterflybrewery.jp/
〒486-0806  愛知県 春日井市 大手田酉町 1丁目 2−7
定休日は日曜日と月曜日
営業時間は11時から20時

🔸ビール作りに必要なのは、「麦芽(モルト)」「ホップ」「酵母」「水」の4つ。
それら原材料とともに、その組み合わせ次第で、ビールの個性は大きく変化する。
さらに、原材料を使うタイミングや温度、量を変えるだけでも異なる仕上がりとなる。

🔸ビールは、酵母が麦汁をアルコールと二酸化炭素に分解することによってできる。
その酵母が働く温度帯の違いでエール(上面発酵酵母)とラガー(下面発酵酵母)に分類される。
エールは発酵の温度が高く(18~24℃)、ラガーは低い(5~14℃)

(文・写真 小出  トップ写真はももさん)

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