変わらぬ味に立ち寄る

初めてその店に行ったのはまだ20歳代と思う。
当時の勤め先の近くにあった老夫婦二人で切り盛りしている町中華。
昼食にはランチセットがあって、一番安いものだと、
たとえば野菜炒めのようなおかずに、ご飯とスープがついて300円台だったと思う。
当時としてもべらぼうに安い。しかも、うまい。
南海園という名古屋市東区にある店なんだけどね。

そのあとはちょくちょくランチを食べに行くようになって、
しばらくすると、おそらく息子と思われる若者が店を手伝うようになって、
しだいに厨房の中心的な役割を担うようになっていった。
そしたら、その息子が、なんだかきれいなお嫁さんをもらって、
お嫁さんも店を手伝うようになっていった。
そのころ、店の近くで、
息子が自転車の荷台にお嫁さんをのっけて、
仲良く二人乗りする姿を見かけたことがあるが、
いやあ、いいなあと、思わず胸が熱くなったことを思い出す。

そのあと、南海園は、忘年会などでも使うようになって、
僕にとっては親しみのある店のひとつになっていった。

昨日の昼、久しぶりに南海園に食べに行くと
息子はそれなりに年齢相応の風貌になっていたが、それでも、まだ青年っぽいところが残っていて、
きれいなお嫁さんもきれいなままの姿であることに、ひとり、うんと頷いた。
ぼくはBセットを注文。肉団子にご飯、スープ、それにラーメンがついて580円。
すごいよなあ。うまくて安くて、青年がいて、きれいなお嫁さんがいて、店の雰囲気は昭和で、
ぼくの好みにぴったりじゃないか。

青年の父母が店を手伝う姿はすでになくなっていた。
また、一時期、青年の息子のような若者が店を手伝っていた時があったが、
あの若者は将来この店を継ぐのだろうか。
どうすんだろうなあ、なあんて親戚のような気持になりながら
満足満足とお腹をたたいて店を後にしたのだった。

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