耳を澄まして

春のような陽気だった。
サイクリングの途中で、堀川沿いの公園で休憩。
近くにあった自販機で缶コーヒーを買って、
水面を眺めながらベンチに腰かけてぼーっとしていた。

なんだか穏やかだなあ、なんて思いながら
ぼーっとしていると、頭のなかが空っぽになったような気がした。
そしたら、不思議なことに、
徐々にいろいろな音が聞こえてきた。
堀川の向こうにある熱田球場からの歓声、
そばを歩く小さな女の子と母親の声、
何しゃべっているのかなあ、
鳥の鳴き声、スズメかなにかかなあ、
それからニワトリのような鳴き声も聞こえた。
それにしても、ニワトリなんて近くにいるのかと、おかしくなった。
ベンチに座っているぼくの前をランニングする足音、
再び鳥の鳴き声、球場の歓声、女の子のかわいい声、、、
行き交う人たちの足音、、、

こんなになくさんの音が
ぼくのまわりにあふれていたのに、
今までまるで気づかなかった。

何か自分が現実を生きているのか
夢の中にいるのか、
それがわからなくなるような、そんな時間がしばらく続いた。
音に囲まれながら、なんか不思議だなと感じた。
嫌な感じはまったくない。
ふわふわした感じ。
どれだけベンチに座っていたかわからないけれど、
しばらくして、ぼくは立ち上がり、自転車にまたがって再びペダルをこぎ始めた。

耳を澄ませて、聞こうとしないと、聞こえてこないことが
たくさんある。

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