名古屋陶磁器会館物語 東大卒の研究者

ぼくが陶磁器産業の業界紙なんていう
まあ、なんというか、やくざな仕事を続けられた理由は
名古屋陶磁器会館という不思議な建物に事務所を借りていた
いろいろなクリエイターたち、同年代の男女との交流があったことがひとつ、
それと、もうひとつ、
陶器という分野の研究者であるカトエツ先生との出会いがあったからだ、

ファインセラミックスならともかく、
伝統的な陶器という分野が科学研究の最先端でないのは
だいたいおわかりいただけるだろう、
でも、そんな分野に、こんな優秀な研究者がいるんだという驚き、
カトエツ先生の話は、あまり理解できなかったけれども、
難しすぎて、わからないんだよ、ほんとに、
でも、その研究に対する姿勢がただモノではないことは、
接したことがある人なら、すぐに理解できると思う、

カトエツ先生は、東京大学を卒業後に京都の陶磁器試験所に入って、
その後、名古屋工業技術試験所、大学の研究機関と
ずっと陶器の研究を続けてきた。
風貌は、アインシュタインのようで、
ぼくが出会ったときは、大学の研究機関で陶器の研究を続けながら、
一般向けに講座を開催していたりしていた、

今でも憶えているのは、
カトエツ先生が開催した一般向けの講座に参加した時のことだ、
その講座には、人間国宝のツカッチも参加していた、
ツカッチが何かついて手を挙げて質問をした、
カトエツ先生は、静かに、こう答えた、
「それについては、わかりません」
その回答を聞いたときに、ぼくは、
わかりませんって言っちゃうんだ、、、と驚くとともに、
その姿勢に感動してしまった、

カトエツ先生は、いろいろな海外の文献を読むときに、
その言語を勉強したうえで読むほど、
常に最善の準備と努力をして研究に取り組んでいる、
そのカトエツ先生が、わからないというのは、
まだ答える準備ができていないということにほかならない、

こんな先生がいるなら、
もう少し、陶器の分野に留まってみるのもいいかもなあ、
とぼくは思った。

その後、カトエツ先生が、ドイツの国際会議に出席するに当たって、
陶器の業界内で参加者を募り、ツアーが組まれた、
幸運にも、ぼくもそのツアーに参加できることになったのだ、、
参加者は15名くらいだったろうか、、

それがぼくにとって初めての海外への旅だった、、、

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