線が生きる形を考える
直美 いま思い出したんですけど、四日市の美術館で板谷波山の作品を見たんです。それで衝撃を受けて陶芸をやりたいと思ったんでした。作品のたたずまいに感動して、こんなに感動できるものがあるんだ、と感激したのを憶えています。
ーーそういう経験があったんですか。なるほど、、。そもそも、直美さんは、このタイミングでどうして陶芸を再開しようと思ったんでしょうか。再開したのは、キリスト教の信仰の影響もありましたか?
直美 うーん、確かに、いつか陶芸を再開できますようにとお祈りはしていました。また、いろいろな事情によってパートの仕事をやめて、やるなら今しかないかなとも感じました。それと、臨時収入があって、そのお金がなくなるまで何かできるかなと思ったということもあります(笑)。もうすでに、そのお金はなくなってしまったんですが、、、
結局、立ち止まって考えたときに、わたしがほかの人よりもやってきたものは陶芸以外にないなと思って、、、
こちらは再開後の作品。写真で伝わるかどうか、線の入り方が違うし、釉薬も異なる
ーーいろんなことが再開につながっていたんですね。再開後は実用的な食器が主体となったのは?
直美 一つの理由は、お金にしないといけないということ。それと、若い頃と違って、主婦を経験していると、使いやすいもの、洗いやすいもの、そういうことを考えるようになりました。それを考えてつくる食器も楽しいなと思います。以前は美しい形に惹かれたんですが、今は暮らしのなかでの器をベースに、線が生きる形のものを考えていけたらいいなと思っています。それと、色、テクスチャーですかね、
土は土屋さんから買ってきたものを使っていますが、釉薬は自分で調合しています。
将来はもちろん陶芸の活動を軌道に乗せたいと思っているんですが、そのためにも、いろんな色に挑戦して、作品のバリエーションを増やていきたいです、、
再開後、初めての個展を開催したときに、見に来てくれた方に言われた言葉で一番うれしかったのは、「シンプルなんだけど、こういう作品はあまり見たことない」というものです。特別な個性はないけど、、、逆に、なんにもしていないという作品は意外に少ない、という意味だと思います。
主婦を経験するといろいろ考えることも多いです。カップのように口が触れるものは気を使いますし、高台の高さもどれくらいがいいのか悩みます。
こちらも再開後の作品。直美さんは「線」におもしろさを感じているようだ
ーーそれぞれ、お互いの活動はどのように見てますか?
直美 夫は、以前に比べたら仕事仲間も増え、活動も広がっているので、、ちょっとうらやましいなと感じることはありました。好き勝手やって楽しそうだなあ、と。わたしは、子育ては忙しくても楽しかったんですが、ふと気が付くと、立ち止まったままだなと感じることはありました。
これ以上我慢していると、夫のせいでとか子どものせいでと思ってしまいそうで、そんな自分は嫌だから、多少迷惑をかけたとしても、陶芸を再開したほうが方がいいと思ったところもあります。
未生 ぼくは、ここまでは放し飼いしてもらったんで、これから、ぼくのできることはどんどん妻へ還元していきたいと思っています。ちょっと暮らしが厳しいから、陶芸を中断してパートで働いてほしいなどと言うつもりはまったくありません。
ぼくがこれまでやってきたことを全部見せて、全部妻に提供していきたいと思っています。やましいことは何もやっていないので(笑)。
ぼくが初めて中村未生さんにお会いしたのは1年ほど前、未生さんの春日井の絵画教室の場所で開催された寺田町さんのライブを聴きに行ったときだ。アコーステックギター一本の寺田町さんのライブはすごく感動したんだけれども、それとともに、中村未生さんって、女性だとばかり思っていたけど髭面の男性だったんだと驚き、さらに、そのネットワークというか、人と人をつなぐ力に驚いた。
今回の雑談中、未生さんはこんなふうに語っていた。「昔から家でじっとしているよりは、動き回るタイプでした。絵描きはテーマを深く掘り下げるタイプが多いと思うんですが、ぼくはそっちじゃないんです。むしろ掘り下げるのは苦手で、広く浅く耕すタイプ。今、やりたいと思ったことをやりたい。毎年ぜんぜん違うところを耕しているだんけど、それが将来、大きな土地になっていればいいなと思う」
名古屋のギャラリーで2回目にお会いしたときに、奥さんが陶芸を再開したと聞き、冒頭で書いたように「再開」という言葉に惹かれたぼくは、その場で話を聞かせてくださいと申し込んだ。
直美さんは未生さんとまったく違うタイプで、静かだけれども芯が通っているという感じの女性だった。再開は、誰にとっても、何かを捨てて新たに始めることだと思う。
今回は直美さんの再開の話を聞きに行ったが、また機会があったら未生さんの耕す話も聞きに行きたいと思う(小出)
中村未生さんのフェイスブック、インスタ、中村未生さんの絵画教室
中村(島村)直美さんのインスタ
直美さんは今年(2025年)の夏に岐阜市の「ギャラリー水の音」で個展を予定
近々、kinjoショップでも、直美さんの器を販売する予定。お楽しみに!