
はじめての修復の依頼
――セントラル・セント・マーチンズを終わってから、ウェスト・ディーン・カレッジで修復の学んだんですね、、(ウェスト・ディーン・カレッジは本物のアンティークや文化財を実際に修復する実技訓練に特化した名門校)
加藤 はい、陶磁器・ガラスの修復のコースで、2年間専門的に学びました、、
当時、イギリスはEUだったんで、ヨーロッパの人はイギリスで仕事ができるけど、日本人はダメで、ワークパーミット(就労許可)を取らないと仕事ができなかったんです、(※現在、イギリスでは認定された大学・大学院を正式に卒業すれば就労ビザが取得できるようになっているが、当時はまだそういう制度はなかった)
だからちゃんとした大きな会社にお願いして、そこで認められないと、仕事をするチャンスがないっていうことが分かってたので、ワンズワースにある有名な、大きな修復の会社でアルバイトをさせてもらったんです、先生に頼んで、、、
ちょうど夏休みの時期でした、、わたしは次の新しい学期が始まるまで、そこで仕事させてもらうことができたんです、、そこでわたしは、自分の結果をちゃんと見せなきゃと思って、しっかり働いたんですが、、その最中の9月11日、仕事がもう終わるころ、夕方だったんですけど、「大変なことが起きてる」って会議室に集められて、そこでツインタワーが攻撃されるところをみんなで見て、、、何が起きてるのか意味がわからないと思って、怖くて怖くて、、、
帰りの途中、ピカデリー(ロンドンのメインストリート)を通るんですけど、そこで号外の新聞がばらまかれていて、うわ、一体何なんだこれはと思って、忘れられない1日でした、、、
ウェスト・ディーン・カレッジでの2年目に入った時に、「バーダ」〔BADA、英国骨董商協会〕の会長、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館のコンサベーション(保存修復)の人が学校にやってきて、バーダの会長のジョナサンが、2年目の私に「このカレッジに預けているものいっぱいあるんだけどさ、今度のセラミックフェアに出したいんだわ」って、、「あ、そうですか」「ちょっと修復をやってほしいんだけど」って言われて、「やった、ジョナサンから修復の依頼が来た」と思って、、、
でもそれは、研修品、練習品として学校へ貸し出しているものだから、わたしには決められないんで、コースヘッドのケネスに聞くと「いいよ、やってください」っていう話になったんで、やらせてもらって、、
それは、デルフトのチャージャー〔ディナー用の大皿〕2枚でした、、、

わたし、これ絶対できる
――陶磁器とガラスの修復の面白さってなんですか?
加藤 ウェスト・ディーン・カレッジを受ける前に、学生が陶磁器・ガラスの修復をしているところを見学したんですが、そのとき、「わたし、これ絶対できる」と思ったんです、、ものすごく妙な自信を感じて、「これならいける」と思った、、やっぱりペインティングじゃなくて、これだと思ったんです、、、
――なんで「これならいける」って思ったんでしょうね、、
加藤 わかんないです、血が流れてるのかもしれないですね、香りがね、テレピンの匂い、その材料の香りがした時に、懐かしいなと思ったし、面白そうと思いましたし、できる、これ絶対できると、、、遺伝子的なものはあるのかな、、遺伝子で受け継がれてきたもの、体に染み付いているもの、というか、、変ですね、、根拠のない自信じゃないですか、
――でも、そういうのがないとできないかもしんないですね、、、いけると思う場合と、いやもう無理無理って思う場合ってあるから、、、
加藤 やっぱり身近というか、好きなものだったんでしょうね、、お皿とか、美しい壺とか、遺伝じゃないけど、馴染みのあるものだったから、、見たことないもの、馴染みのないものだったら、不安要素の方が大きくなるかもしれないけど、、
今思い出しましたけど、見学に行った時に、セラドン〔青磁〕の壺を直してる人がいて、「このセラドンは本当に直すのが難しいんだよね」っていう話をしてくれた時に、わたしだったらできると思ったんですよ、その瞬間に、、
――不思議ですね、、学校で習う修復は、ほぼ元通りにするということですか?
加藤 それがですね、目的によって、どこまでやるかっていうのが違うので、そういうことも含めて、「ここはこういうやり方の修復がいい」という判断も、修復をやる人が決めるんですね、、
例えば、エアブラシを使っって元通りにしたり、カラーフィルっていう手法もあって、、、カラーフィルは、透明度と色を合わせたパテで埋めて、磨いて、、パッと見はわかんないようにする技法なんです、、、
それから、陶器の場合に多いんですけど、発掘品とかは、欠損がありますが、どこが欠損しているのかわからないといけないので、あえてわかるように仕上げるやり方とか、、、
――ああ、博物館に展示してありますね、そういうの、
加藤 そう、オリジナルの元の部分に、その詰め物の粉とかが入らないように、またこの先ひび割れができないような処置を施すことが大切で、、
――なるほど、ということは「これを修復してください」となった場合、どういうふうに修復するかっていうのを話し合うわけですね、、
加藤 そうです、プランが最初にあるんです
――たいていのものは修復できるんですか?
加藤 例えばガラスでいうと、古代ガラスは表面が剥離してくるんですよ、イリデッセンスという現象、見る角度や光の当たる角度によって、表面の色が虹色に変化して見える光学現象なんですが、そういう感じになって、ペロペロめくれてくるような状態になってると、もう、どうしたらいいかわからないです、、、
触った時点で剥離して、触れなくなっちゃうので、今ある形をできるだけそのまま保存するようにします、、埃を払っても大丈夫な状態であれば、すごく柔らかいもので埃を払います、、軽くクリーニングするだけで、何もしないっていうのも、修復の方向性として、一つの選択肢なんです、
コンソリデーション(固着・強化・定着)といって、層を定着させることができる状態であれば、それをします、、
あと、楔形文字の粘土板、粘土の塊は、焼いてあっても焼いてなくても、「ソルト(塩類風化:美術品や建造物を内側から破壊する劣化原因の一つ)」といって、中に結晶ができてくるんですよ、土の層の中に入ってたミネラルが乾燥してくると水分が抜けて、結晶ができて割れてしまう、、それを止めるために、昔は「デサリネーション(脱塩処理)」を行うのですが、今はデサリネーションはしないようです、、できるだけ、その結晶を取るということです、、
――考えなきゃいけないことが多いですね、、正解が一つあるっていう感じじゃなくて、こういうこともできるけど、こういう方法がベターだとか、道を選んでいくみたいな、そんな感じなんですかね、、
加藤 どの点を重視して、どういうふうにしたらいいか、そういうディスカッションをしたり、自分で考えたり、、、

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